以前にこんな記事を書きました。
この記事ではポッドキャスト『ジョーローガンエクスペリエンス』にて、ジョーローガンとニールタイソンによる対談の内容を取り上げました。
今回も同様、この『ジョーローガンエクスペリエンス』からあるエピソードをひとつピックアップしました。それがこちら。
理論物理学者のBrian Greene(ブライアン・グリーン)との対談です。
ブライアングリーンはコロンビア大学の教授を務めるほか、毎年ニューヨークにて行われるイベント「World Science Festival」の主催者であったりと様々な活動をしています。理論物理学者としては超弦理論や多元宇宙論などで知られていますね。
以前も軽く紹介しましたが、ドキュメンタリー番組『宇宙〜時空超越の旅〜』でホストも勤めています。
今回はこの辺の話なんかも軽く触れながら書いていきます。
(Disclaimer: 当方は専門家ではないので場合によって誤った情報を発信してしまうかもしれませんが予めご了承ください。)
我々の住む世界
万物は素粒子のかたまり
我々の住む世界は全てAtom(原子)によって作られています。
このAtomは「Neutron(中性子)、Proton(陽子)、Electron(電子)」で構成されていて、NeutronとProtonはQuark(クォーク)で構成されています。(電子はこれ以上分解できません)
このQuarkとElectronのような最小単位のものをElementary Particle(素粒子)といいます。
人間は感情を持ち、思考することができる特別な存在ですが、そんな私たちも物理学の観点から捉えればそのへんのコップやテーブルなんかと変わらず素粒子のかたまりに過ぎません。
温度も素粒子の振動によるもの
我々の感じる熱い、冷たいなどといった温度も素粒子の振動によって生じているに過ぎません。
私たちが日常生活でよく使う電子レンジなんかはまさにこの原理を利用したもので、食品に含まれている水の分子などを振動させて温める仕組みとなっています。
時間という概念
そもそも時間とは
時間は相対的なものであり、「空間」と密接な関係にあります。
そのひとつとして「運動」があげられ、時間は運動によって遅くなります。
また時間は「重力」によってその進行が早くなったり遅くなったりします。
映画『インターステラー』のように重力の強い惑星に行けば時間の進みが遅くなり、その星での1時間が地球での7年分に相当するなんてこともあります。
またこうした重力による影響はわざわざ他の惑星なんかに行かなくても、地球上でも生じています。
その差はわずかですが、高層ビルの最上階に住む人と一番下に住む人とでは最上階に住む人のほうが地面から離れていて重力の影響が弱いので時間の進行は遅くなります。
つまり時間の進行というのはひとりひとり違うのです。
過去や未来といったものは幻想にすぎないかもしれない
時間のずれは距離が離れれば離れるほどその差は大きくなります。なので例として百億光年も離れた場所に宇宙人がいると仮定します。
その宇宙人が地球と反対方向に進む(運動する)と時間の進み方が遅れ、宇宙人からみた現在は地球では今から数百年前になります。また逆にその宇宙人が地球の方向へと進む(運動する)と時間の進み方が早まり、宇宙人からみた現在は地球では今から数百年後になります。
つまり、私とあなたでの過去、未来、現在は決して同じものではなく、過去も未来も現在も等しく存在しているということなんです。
我々の世界に住む「時間」という概念は他の世界では違う形で存在する可能性がある
ではこの「時間」というものはどこからきたのでしょうか。
ひとつは「時間はビッグバンによって生まれたもの」だと考えられます。
例として、地球上で「北」を目指している人がいるとします。
その人は他の人たちに方角を教えてもらいながら北へ北へと北上していき、そのうち北極にたどり着きます。
しかし北極にいる人に「これより北へはどう行けばいい?」と聞いても答えは返ってきません。それは北極が北の始まりだからで、北極よりも北に行くという概念そのものが存在しないからです。
これと同様のことが「時間」にもいえるかもしれないとブライアングリーンは言います。
時間は10億年前、100億年前と過去に遡ることができますが、138億年前がビッグバンが起きて宇宙が誕生した瞬間であり、そのときに「時間」が始まったのではないかということです。なのでビッグバン以前には「時間」という概念そのものがありません。
先程「温度」は素粒子の振動によって生まれるとお話しした通り、原子や分子などが私たちの住む現実世界を作り上げているわけですが、これが「時間」にも当てはまるかもしれないんです。
“Maybe time as we know it is a property that only makes sense in certain environments when there’s enough stuff arranged in a right patterns. But fundamentally maybe there are atoms or molecules of time which when not arranged in the form that we are familiar with don’t yield time as we know it. Time itself may be a quality of the world that exists here in this environment but doesn’t even apply in other environments that are configured radically differently.”
なので我々の知らない他の世界では違う物理の法則があり、我々とは異なるものから「時間」が存在しているのかもしれないし、もしかしたらそもそも「時間」のない世界が存在するかもしれません。
ブライアングリーンの考える「人生の見方」
我々の住む宇宙はビッグバンによって誕生したわけですが、ビッグバンがユニークな出来事ではないとすれば他にも起こり得るので、そのビッグバンの数だけ他の世界が存在しうると考えられます。これが多元宇宙論ですね。
その世界のひとつではもしかしたら、自分と似た、しかし少し違う別の自分が存在しているかもしれません。
“What do you mean by you if there are many of you out there each of whom has an equal claim on being you because they’ve had the same experiences and they have the same memories?”
こうして考えてみると我々という存在は一体なんなのでしょうか。
宗教と科学
私含め日本人は深く宗教を信仰しているという方は少ないですが、世界的に見れば多くの方がなにかしらの宗教を深く信仰しています。
しかし宗教と科学は決して相性がいいとはいえないし、むしろ対立することのほうが多いです。
実際、ブライアングリーンの生徒にはこうした「religious life」と「academic life」の交差によって動揺、困惑してしまう学生もいました。
ところが科学者の中にも宗教を信仰している人はいるのです。
ブライアングリーンがある科学者の集まりに参加した際、無神論的な考え方をしていたのはブライアングリーンただ一人で、他の科学者(中にはノーベル賞受賞者もいた)は皆なにかしらを宗教を信仰していたそうです。
いまこうして我々が存在しているのは奇跡である
人類がどうやって地球に誕生したのかは一旦置いておいて、ビッグバンから今に到るまでこうして生きているのは驚異的なオッズです。
地球上でさえ北極や南極に行けば極寒であり、人間が生存していくには困難な環境であるといえます。太陽と地球はちょうどそんな絶妙な距離間に位置しているのがただの偶然であるなんて信じられないですよね。
こうした事実をブライアングリーンは讃えるべきだと考えます。
世の中ノイズだらけなのでそれに振り回されたりなんかしていると、ふとした時に「人生の意味ってなんなんだろうか」と悩んでしまう方も多いと思います。
しかし結局のところ我々の世界はまだ現代の科学ではわからないことだらけなんですよ。
もしかしたらこの世界はひとつだけかもしれないし、はたまたマルチバースかもしれません。はたまたただのシミュレーションであり仮想現実なのかもしれません。
そもそも人間に関しても現在では進化論を否定する声も多く、創造論(何者かによってデザインされた)を信じている人もいます。
我々はこの世界が何であるかどころか、自分たちが何者であるかすら解明できていないわけです。
人生の意味について考えることは時として意味を持ちますが、それで思い悩み病んでしまってはもったいないです。
そんなことよりももっとこの「存在しているという奇跡」を受け入れて人生を謳歌すべきだとブライアンは唱えます。
奇跡のうえで我々は存在しているわけですが、ただそこに存在するのではありません。
我々はどこからきたのかを研究したり、アートを生み出したり、小説を書いたり、コメディを作ったり、モニュメントを建てたり、映画を撮ったりと他の生物にはできないことを生み出したり創造したりすることができるからです。
こうした考え方が人生をより良い方向にシフトさせていけるんじゃないかなと思います。
最後に
今回の内容も相変わらず動画のごく一部であり、ほかにもアムステルダムでの”体験”の話(帰りの飛行機ではぶっ通しでビートルズを聴いていたらしい、より効きそう。)などたくさんの面白い話がありました。
また考え方、知見の紹介として精神分析家のオットー・ランクや進化生物学者のリチャード・ドーキンス、心理学者のスティーブン・ピンカーなど様々な分野からの引用がありました。
「英語」の観点でみるとブライアングリーンのトークはかなり勉強になるんじゃないかなと思います。ワードセンスや言い回しなど非常に知的な印象を受けます。
ポッドキャスト『StarTalk』にてブライアングリーンを迎えたエピソードがあるんですが、そこでco-hostのチャックナイスが「ブライアングリーンの話し方を学ばなきゃいけない」と感心していました。
今年出したばかりのブライアングリーンの新著『UNTIL THE END OF TIME』があるので、これを機に英語で知的冒険をしてみるのも面白いかもしれませんね。