以前こんな記事を書きました。
私たちはこの「選択する」という行為を重要視しています。
なかにはこの行動そのものをエネルギーの浪費とし、無駄な「選択」によって脳を疲れさせないために毎回同じ服を着るなんていう方々もいますね。
ところでこの「選択」。
私たちは日々「これ食べよー」とか「この映画みよー」とか数ある選択肢のなかから何かを選んでいますよね。その行動そのものも選んでいます。
今この記事を読まれている方はこの記事にたどり着いた経緯は人それぞれ違えど、いまこうして読んでいただいているわけですが。
もし今読んでいるのが「あなたの意思」によるものではないと言われたらどう感じますか?
しかもそれがこうなるものだと決まっていたとしたら?
最近『Brexit: The Uncivil War』という映画を見ました。
この映画では イギリスのEU離脱の是非を問う2016年の国民投票の背後で「離脱派」の投票キャンペーンを指揮した選挙参謀ドミニクカミングスがどのようにして国民投票を攻略したのかを描いているんですが、彼らの戦術は「インターネットによる広告」を用いたものでした。
一見その広告らはEU離脱とは関係なく見えるのですが、そうした広告によって人々にEU残留に対するネガティブな印象を刷り込んでいき、人々がEUから離脱したくなるように印象操作、情報操作を行いました。(彼らが用いたこの方法は発覚後問題視され、議論されています。)
この映画からもわかるように、私たちの世界というものはとにかく情報に溢れていて自分の行動というのはもはや何に促されて行なっているのかわからないんですよね。
例えば外食。偶然そのお店に立ち寄ることもあれば、ネットの記事やレビューなんかを参考にしてお店を選んだりしています。この場合あなたがその店を選んだとも言えますが、その記事やレビューに誘導されたとも言えます。
「あなたの行動や言動」はあなた自身は自発的な意思により行動、発言していると思っているかもしれませんが、それはそうではないかもしれません。
しかし自分の行動は時として自分の願望によるものではなく、「何か」に誘導されて行動しているなんてこと普段意識しないですよね。もしかしたら人によっては「1日のうちのほとんどの行動」を操作されているかもしれません。
まぁ消費者行動なんかはビジネスにおいてマーケティングで普通に利用されているわけですが。
今回の話はこういったビジネスの視点の話ではなく、物理学や神経科学といった”科学”の視点からの話です。
そして取り上げる動画がこちら。
当ブログではもうおなじみの『StarTalk』です。
本エピソードではいつもの天体物理学者ニールタイソン、コメディアンのチャックナイスに加え、理論物理学者グライアングリーン、そして神経科学者ヘザーベルリンが出演しています。(今回の記事では取り上げませんが、他にもお二方出ています)
ということで今回はこの様々なジャンルの専門家たちによる白熱した討論の模様から要所要所を切り取ってお伝えします。
(Disclaimer: 当方は専門家ではないので場合によって誤った情報を発信してしまうかもしれませんが予めご了承ください。)
「自由意志」と「決定論」
自由意志はない?
ブライアングリーンは自由意志についてこう述べています。
“Free Will is the sensation of making a choice. The sensation is real, but the choice seems elusory. Laws of physics determine the future.”
つまり自由意志とはあくまで選択をしているという感覚に過ぎず、その感覚はリアルなものであるが「選択」自体は幻想であるということです。また未来は物理の法則が決定づけるとも述べています。
物理学の観点からいえば万物は素粒子のかたまりであり、過去の状況に基づいて未来を決定するだけです。
これに対し、ニールタイソンは「創発的な特性を自由意志と呼ぶことはできないか?」といいます。
Emergence(創発)とは部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れることです。
例えば「アリ」は何千もの集団となるとアリ塚を作ります。これはアリ一匹だけではこうした行動はとりません。また鳥の場合は群れをなして空を飛びます。
つまり、局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成されることをいいます。
この創発特性もひとつの考え方としてあり、意識は脳の創発特性によるものなのかもしれないというものです。
ところで、ヘザーがいうには脳が常に選択を行なっており、選択や信念、行動がすべて脳によって決められているといいます。
しかしこの脳がすべてを選択しているならなぜ、まるで自らの意思によって決めているかのような「感覚」を持っているのでしょうか。この幻覚がなかったら私たちの行動にどう影響があるのでしょうか。
彼らがいうにはこの幻覚があったからこそ5万年前、10万年前に私たちはサバイバルの状況で生き残ることができたといいます。
なにか行動を起こし「自分の決断によって変化をもたらすことができる」と実感することで、より注意深く、そしてよりそこに従事するようになります。だからこういった幻覚があるのだといいます。
ということで神経科学と物理学どちらの観点から見ても、自由意志は幻想にすぎないようです。
また、ヘザーがいうには「自由意志は幻覚である」と理解している人の方が理解していない人よりも生存競争で生き残っていくみたいです。
しかしここでニールは「人間はそれぞれ自らの自由意思によって学校へ生き、良い仕事に就いて働くということを信じたい」といいます。
「もし仮に最終的に刑務所に行くことになってもそれはビッグバンから決められたことだというのか?」と。
そしてチャックもいいます。
「もしこれらの事実を受け入れたとして、それが運命論の考え方へと導かれるとする。この考えの流れも決められていたのか?」と。
人生は決まっている?
DeterminismとPre-determinism、そしてFatalismはよく同じ議論で取り上げられます。
Determinism(決定論)はすべての行動は現在の状態と宇宙の不変の法則によって決定され、選択の可能性はないという考え方です。
Predeterminism(事前決定論)は起こるすべての出来事はすでに決定されているという考え方です。
そしてFatalism(運命論)はすべての出来事は運命、不可避の対象であり、人間の力ではどうすることもできないという考え方です。
多くの人はこうした考えを聞くと「じゃあ何事も起こることが事前に決められているならなんもしなくていいや。家のソファでごろごろして過ごそうかな」というような考えに至ります。
しかしこれは見方をいろいろと混合してしまっているとブライアンはいいます。
もしあなたが「自由に選択する」と思ってソファに座り、それに屈して座り続けるならそれはそうなると決まっていたということです。
つまりその「座る」という行為は「運命論という考えを知った」という出来事がもたらした結果の行動であり、結局のところ起こるべくして起きたことなんです。
またヘザーはCompatibilism(両立論)という違うものの見方を紹介します。
両立論とは起こることは決められているが、しかしそれと同時に自由意志も存在するというもので、決定論と自由意志は両立するという考え方です。
私たちの認識している「時間」も幻覚?
神経科学の観点からいうとヘザーは時間も脳の創造物であり、幻想であるといいます。
そういえば昔、予備校生時代に「人間に時間の概念が生まれた瞬間」の話を聞いた覚えがあります。確かそのきっかけは「食」でした。
もともと私たち人間に時間の概念はありませんでした。
大昔、まだ文明もなく狩りなんかをしていた頃は食べ物を得たらその場ですぐ食べてしまいます。犬など他の動物と同じですね。その瞬間瞬間を生きています。
しかし冬の季節なんかは食物が取れなくなります。こうした季節の変化が影響したのかわかりませんが、ある日人間は「食物を保存する」という発明をします。
食べ物を得たらすぐその場で食べてしまうのではなく、明日、明後日など未来のために保管しておくという行動をし始めたのです。
こうして人間に未来、過去、現在などの「時間」という概念が生まれたといいます。
なので時間という概念は人間だけが認知するものであり、他の動物にはありません。彼らは常に「今」という瞬間を生きています。(犬なんかはエサの時間などを覚えていたりしますが、それは習慣によって生まれた「記憶」です)
神経科学の観点からいうとヘザー曰く、人間の感じる時間は簡単に操ることができるので幻想らしいですが、物理学の観点からいうとブライアンは時間は存在するといいます。(この「時間」に関しては以前触れました。)
最後に
結局のところ私たちは自分たちの住む世界は疎か、人間さえも完全に理解しているわけではないので、まだまだわからないことが多いです。
「自由意志はない」、「人生は決まっている」なんていうのはネガティブなメッセージに聞こえますが、ブライアンは「だからといって悲観的になる必要はない」といいます。
その意思や行動の生まれる元や過程がどうであれ、結局それはあなたの脳、素粒子の反応であり、あなたの導き出した意思や行動となるからです。
これまでにも科学や宇宙についていくつか取り上げてきましたが、ビジネス専攻だった文系出身者としてはこういった科学分野からの物の見方というのは知らないことだらけで大変興味深いです。
またこの動画は「英語」の観点から見ても面白いです。
例えばチャックのジョーク。彼はデッドパンを多用していますね。デッドパンとは真顔でいうジョークです。またウィットに富んだものもかなりあります。堅くなりがちな内容のイベントですが、彼の存在によって会場には笑いもあり、エンターテイメントなショーとして最高に楽しいものになっています。
StarTalkから視聴する動画を選ぶときに「その回にチャックが出ているか」も正直見るかどうかの決めてとなってます。笑
今回のイベントではニールとチャックは終始ふざけている(良い意味で)のでこういった絡みの部分からも英語の学びとなるものがあると思います。