ペーパードリップで淹れてるときステアしてる?

コーヒーには様々な抽出方法があります。

そのなかでもポアオーバー、特にペーパーフィルターを使った抽出方法は人によって言っていることが全然違うのでよくわからないことが多いです。

Youtubeなどでも淹れ方の紹介をしている動画がありますが、その方の紹介している方法によって「正しくない」「そのやり方は間違ってる」などとコメント欄に書かれたりします。

最初に結論から言いますが、どんな方法で抽出するにしろコーヒーの淹れ方に正解はありません。

国によっても店によっても個人によっても淹れ方は異なるので一概にこれは正しい、これは間違っているというのはありません。

ただ、あえて言うならその人がどの立場に立っている人なのかで区別することはできると思います。

例えば日本でコーヒーを提供する店といったら「喫茶店」、そして「カフェ」と大きく2つに区分できます。(正直ひとまとめに喫茶店やカフェといっても、店によっても全く異なるので難しいところではあるのですが)

自分は純喫茶もスペシャルティコーヒーを提供するカフェでのバリスタも両方経験があるんですが、少なくとも自分がいた店でいえば喫茶店とカフェではコーヒーに対する考え方はけっこう違います。

片方しか経験してないと偏った見方をしてしまいますが、一応筆者の場合は両方の経験があるので中立の立場で比較できると思います。

ということで今回はドリップを例にいろいろと書いてみます。(これからたびたび登場する「カフェ」は主にスペシャルティコーヒーを提供する店のことを指します)

沸騰したてのお湯はだめって本当?

出典:Vega Coffee

喫茶店で働いていたときは沸騰したお湯が適温まで冷めるのを待ってから淹れていました。温度計を使ってチェックする店もあります。

一般に「コーヒーを淹れるときのお湯の温度には適温がある(なので沸騰したてのお湯はだめ)」という考えがあります。

実際ホットコーヒーを淹れるか、アイスコーヒーを淹れるかでお湯の温度調整をしていました。

一方カフェではお湯をほとんど冷ますことなくコーヒーを淹れてました。

別の考え方として「お湯の温度が高いほどそのお湯がコーヒー豆に触れたときにより多くの化学反応が起こる(より多くのフレーバーを呼び起こす)」という考えがあります。

欧米の多くでは沸騰直後のお湯が空気に触れた段階の温度で大丈夫という考えのカフェが多いです。なので意図的に冷ますという行為はあまりしません。

ではなぜこうも違いが生まれるのでしょうか。

要因のひとつとして豆の焙煎度の違いがあげられると思います。

一般に喫茶店で扱う豆はカフェで扱う豆に比べ、焙煎の深いコーヒー豆が多いです。

焙煎の深い豆は高温で淹れてしまうと苦味が増します。そもそも焙煎の深いコーヒー豆は苦味が多いので、より苦くなってしまいます。

なので少し冷ましてから淹れるというわけです。

一方焙煎の浅いコーヒー豆はその逆で、低温のお湯で淹れてしまうと酸味が増します。そもそも焙煎の浅いコーヒー豆は酸味が多いので、より酸っぱくなってしまいます。

なので高温で淹れるというわけです。

ということでお湯の温度はなんでもかんでも冷ませばいいというわけではなく、焙煎度合いによってお湯の温度を変えるというわけです。

ペーパードリップは先に紙を濡らす?

出典:Prima Coffee Equipment

フィルターをリンスするか否かについて。

おそらく多くの喫茶店ではリンスはしないでしょう。

カフェではむしろリンスしないところは少ないんじゃないでしょうか。

リンスをする目的はいろいろあります。

  • ペーパーの臭いを取り除くため
  • ペーパーとドリッパーを安定させるため
  • ドリッパーとサーバーを温めるため

ペーパーの臭いはどのドリッパーのものか、またどのメーカーのものかによって違います。(例えばV60だけでも作っている工場の違いなどで3種類くらいあります。)

よくいうのはリンスするときに出たお湯をそのまま飲んでみれば違いがわかるといいますね。ものによっては紙の味や臭いがするものもあります。

安定させるためというのもドリッパーの種類によっては上手くはまりづらいものがあるので、リンスしてくっつけてしまったほうが良いものもありますね。

ドリッパーとサーバーを温めるためというのは理にかなっているように感じます。(夏場とかなら必要なさそうだけど)

正直どのドリッパーやペーパーを使うのかによって変わってくるので、どれにも当てはまらなければあえてリンスする必要はないのかなと個人的には思います。

蒸らしの時ってスプーンでかき混ぜるの?

出典:Sample Coffee

スプーンなどでステアするか否かについて。

これも喫茶店とカフェの違いというよりは、さきほど述べた焙煎度による違いが大きいと思います。

喫茶店ではそんなことはしませんでした。

フィルターコーヒーには「蒸らし」という工程があります。コーヒー豆にお湯が最初に触れる段階のことですね。

蒸らしの段階で豆は膨らみます。この反応があるかないかで豆の良し悪しや新鮮な豆かどうかを見る人もいますね。これは間違ってはいませんが、一概にそうとは言えません。

この豆が膨らむという現象、ご存知の方も多いと思いますがこれは焙煎の深い豆がお湯に触れたときに起こる現象なんですね。

焙煎の深い豆は重量が軽く、多くのガスを含んでいるため膨らみます。

なのでカフェで扱う豆のほとんどは喫茶店のものに比べて焙煎の浅い豆を使用していることが多いため、そもそも蒸らしの段階で豆は膨らみません。

ところでカフェといえば、多くのカフェでは最初にお湯を淹れた段階でスプーンなどを使ってステアします。なぜこんなことをするんでしょうか。

焙煎の浅い豆はガスこそ少ないですが重量が重いため、ガスが放出しづらくなっています。

ガスをそのまま放置してしまうとコーヒーの味に影響するため、最初の淹れた段階でスプーンで撹拌することによって豆をお湯にしっかりと浸透させガスを放出させるというわけです。

こういった違いもあってか日本ではステアする店としない店がありますが、欧米ではほぼ100%ステアします。(有名なコーヒーショップによるトレーニングでもステアの方法を教わったりします)

Tim Wendelboeの言葉を借りるなら、しっかりと浸透させるため挽いた豆すべてにプールパーティに参加してもらいます。

あとサーバーごと持って円を描くように回す人もあります。(英語ではSwirlといいます)

これも豆がしっかりとお湯に触れることを目的として行われ、人によっては蒸らしの時ステアではなくスワールしたほうがよりしっかりと浸透させられるという意見もあります。

Bloomという言葉について

少し違う角度から見てみましょう。(ここからは完全に個人的な意見です)

日本でいう「蒸らし」は海外では一般的に「Bloom」といいます。

一応同義語として扱われますが、なんか言葉のニュアンスが違いますよね。

まずは蒸らしの定義を見てみましょう。

コーヒーの蒸らしとはひとことで言うと、ハンドドリップでコーヒーを淹れる際に初めに少量のお湯を注いで一旦待つ作業のことを言います。美味しいコーヒーを淹れるためにはこの蒸らしの作業が重要になるのです。

この蒸らしの作業を行うことによって、コーヒーの粉に均等にお湯を行き渡らせて、コーヒーの味を引き出しやすくなります。蒸らしの作業でお湯を少しだけ注ぐと、コーヒーの粉がプクーと膨らんできます。

Hack Coffee Beansより引用

やはり蒸らしというと触れずにある一定時間そっとしておくというニュアンスが強い気がします。

次にBloomの定義を見てみましょう。

Bloom is a quick bubbling up of carbon dioxide and coffee grounds that occurs when freshly roasted coffee is brewed. Giving your coffee a half minute to bloom, depending on how recently it was roasted, will enhance its flavors. Degassing.

DRIFTAWAY COFFEEより引用

一方のBloomだとガスを放出させるのが一番の目的であるというニュアンスが強い気がします。

撹拌させることによっていち早くガスを放出させようとするので、あまりそっとさせておくといったような考え方はないように感じます。

日本でもありますが、特に海外では蒸らし以降もステアやスワールする人がけっこういます。(コーヒー業界で著名な方もやってます)

スワールはまだいいとして、蒸らし以降もスプーンでガチャガチャとドリッパー内をいじくりまわすのは個人的にはあまり好きではないんですが、そういった行為も上記のような考えがあまりないからなんでしょうか。

ところで、なぜBloomと言うのかは「開花したように膨らむから」みたいなんですが、今ではBloomすることのない豆もかなり多いので昔の名残でそのまま使っているということなのかな。

言葉としてみると喫茶店や海外でも昔ながらのスタイルでやっているカフェのコーヒーは「蒸らし」も「Bloom」もしっくりきますが、スペシャルティコーヒーなどを扱うカフェの多くのコーヒーはどちらももう当てはまらないですよね。(味や香りを”開花させる”という意味合いでならなんとなくわかるけど)

みんなちがって、みんないい。

いろいろ書いてきましたが、結局のところ本人がどういうコーヒーを淹れたいのかによって変えればいいというところに落ち着くと思います。

焙煎度合いによっても変わってくるし、ドリッパーによってもそれぞれ適性や特性があります。

というわけでブログでもYoutubeでもいいですが、淹れ方の紹介をしているときに蒸らしで豆を膨らませていたら「あ、この人は喫茶寄りのコーヒーが好きなのかな」とか、ステアしたりスワールしたりしていたら「この人はスペシャルティ系の人なのかな」と思えばいいわけです。正しい正しくないはありません。

人によって浅煎りが苦手な方もいれば深煎りが苦手な方もいるんですが、個人的にはどの焙煎度合いも好きなので淹れ方、楽しみ方は人それぞれかなと思います。

というわけで、今回紹介するのはBloomにちなんでRadiohead(レディオヘッド)のBloom。