前回はコーヒーの原種であるアラビカ種、そしてロブスタ種についてお話ししました。
今回はコーヒーの品種についてです。
前回説明した通り、我々が目にするほとんどの品種はアラビカ種のものになります。
ということで、アラビカ種の品種についてお話しします。
在来種
在来種とは人為的な品種改良などを受けずに自生して受け継がれてきた品種のことをいいます。
Typica(ティピカ)
アラビカ種のなかで最も古く最も原種に近い在来種です。
“Typica” この文字を見てなにかピンと来ませんか。
そうです。「Typical(典型的な)」ですね。
その名の通り、のちに「変異種や交配種、選抜種」の項目で紹介していく品種のオリジナルとなる品種です。
風味や香りに優れていて非常に品質の高い品種なのですが、病虫害に弱く生産性が低いという弱点があり今ではほとんど手に入らない希少なものとなってしまいました。
こうした経緯もあってたくさんの品種改良が行われるようになったんです。
Geisha(ゲイシャ)
ゲイシャ種はティピカ種と並んで古い在来種になります。エチオピアのゲシャという町で発見されたのでエチオピア在来種、「ゲイシャ」と呼ばれるようになりました。
Geshaという町の名前ですが、伝わっていくうちに訛り一般的にGeishaとして認知されるようになりました。日本の芸者とは無関係です。
少量しか生産されない希少性のあるゲイシャは非常に評価の高い品種となっています。
主に原産地のエチオピアや中米などで栽培されています。
変異種や交配種、選抜種
アラビカ種はこの後、自然突然変異や自然交配、また人為的な交配などによって新たな品種が増えていきました。
代表的なものを紹介していきます。
Bourbon(ブルボン)
ブルボン種はインド洋に浮かぶフランス領レユニオン島にてティピカ種が突然変異し生まれた品種です。
当時レユニオン島はブルボン島という名前だったことからブルボン種と名付けられました。(スペルはバーボンと同じですが、コーヒー品種を指す時は英語でも発音はブルボンです)
アラビカ種の豆はティピカ種とブルボン種が二大品種と言われています。
ブルボン種はレッドブルボン以外にイエローブルボン、オレンジブルボンなどがあります。
ティピカ種よりも収量が多く、しっかりとした甘みが特徴です。
中南米、ルワンダなどで栽培されています。
Mundo Novo(ムンドノーボ)
ムンドノーボ種は1940年代ブラジルにて、ティピカの突然変異種であるスマトラとブルボン種の自然交配によって生まれた品種であり、その地名にちなんでムンドノーボ種と名付けられました。
収量が多く、病虫害にも強いです。
マイルドでバランスの取れた味わいが特徴で、ブラジルで広く栽培されています。
Caturra(カトゥーラ)
カトゥーラ種は1937年ブラジルにてブルボン種の突然変異によって生まれた品種です。
収量が多く病虫害にも強いので生産性が高く、また矯性なので収穫に適しています。
味わいは渋みが出やすいという特徴があり、コロンビアと中米を中心に栽培されています
Catuai(カトゥアイ)
カトゥアイ種は1950〜60年代にブラジルにあるInstituto Agronômico de Campinas(カンピナス農業研究所)という研究開発機関にてカトゥーラ種とムンドノーボ種を人工交配させて生まれた品種です。
ムンドノーボ種に似てバランスの取れた味わいで、ブラジルをはじめとして広い地域で栽培されています。
SL-28
急になんかかっこいい名前が出てきました。SL-28種はタンザニアで発見され、ケニアにあるScott Laboratories(スコット研究所、スコットラボラトリー)にてブルボン種から選抜された品種です。
“SL”という名前はScott Laboratoriesの頭文字で”28″は品種ごとにつけられる数字で、28番目に開発された品種という意味です。
Blackcurrentのようなベリー系の風味が特徴。
高品質と評価されていて、ケニアで広く栽培されています。
SL-34
SL-28種も同じくケニアのScott Laboratoriesにて。SL-28に代わるものとしてブルボン種から選抜された品種です。
テイストもSL-28種と同様フルーティな風味が特徴です。
こちらもケニアで広く栽培されています。
Pacas(パカス)
パカス種は1949年にエルサルバドルにてブルボン種の突然変異によって生まれた品種です。
矯性なので収穫に適しています。
種子が大きく、品質はブルボン種に似ています。
香り高く、華やかな風味が特徴で、エルサルバドルで栽培されています。
Maragogype(マラゴジッペ)
マラゴジッペ種はブラジルにてティピカ種の突然変異によって生まれた品種です。
木は高く、葉も種子も非常に大きいのが特徴で、”Elephant Bean”と呼ばれたりします。が、収量は少なく生産性は低いです。
独特な風味が特徴で、中南米で栽培されています。
Pacamara(パカマラ)
パカマラ種は1958年にエルサルバドルにて上記で紹介したパカス種とマラゴジッペ種の人工交配によって生まれた品種です。
PacasとMaragogypeでPacamaraです。わかりやすいですね。
両種の長所を受け継ぎ、種子は非常に大きく矯性で収穫に適している品種となりました。
チョコレートやフルーツの味わいで酸味と甘みが特徴です。
エルサルバドルを中心に栽培されています。
Villa Sarchi(ビジャサルチ)
ビジャサルチ種はコスタリカにてブルボン種の突然変異によって生まれた品種で、生まれたその地名にちなんで名付けられました。
収量が多く、またパカス種と似て矯性で収穫に適しています。
風味が良く、フルーティな味わいが特徴です。
コスタリカを中心に栽培されています。
Kent(ケント)
ケント種は1920年代インドのマイソールにて、ティピカ種と他の品種(不明)との交雑種だと考えられています。
イギリス人農園主のロバート・ケント氏によって発見されたためこうした名前がつきました。
すっきりとした酸味が特徴で、主にインドで栽培されています。
S795
またかっこいい名前登場。S795種はインドにあるBalehonnur Coffee Research Stationという研究機関にて、ケント種とS288種(アラビカ種とリベリカ種の自然交配によって生まれた品種)の人工交配によって生まれた品種です。
バランスの取れた味とモカフレーバーが特徴。
主にインドとインドネシアで栽培されています。
品種で豆を選んでみるのもコーヒーを楽しむうえでの醍醐味
コーヒーの品種は今でも品種改良などが行われていて、日に日に増えていっています。
ひとつひとつを深く掘り下げていくとまさに「沼」で、果てしなくキリがないのでなるべく代表的なものを簡潔にまとめてみました。
コーヒー豆を選ぶうえで生産国やTasting notesだけを判断基準にするのではなく、品種をキーワードに選んでみるのも楽しいと思います。