短編集1作目『The Adventures of Sherlock Holmes / シャーロック・ホームズの冒険』曇り空漂うロンドンで読むホームズがなかなか面白い

久しぶりにシャーロックホームズの本を手にとる。(といってもKindle)

最後に読んだのは小学生のころだろうか。

本はもともと好きで、これまでそれなりに読んできたつもりではあるのだけれど、昔から海外小説には苦手意識があり、あまり手をつけてこなかった。

というのもまず、登場人物の名前がカタカナばかりで覚えられないということ。

そして馴染みのない土地ばかりで地名がピンとこないということ。これらは小学生にとってはもはや苦行に近い。そこに追い討ちをかけるように、過去の書籍は独特な言い回しで訳されたものも多いので、これがまた子供からするとそれらをよりとっつきづらいものとした。

小説に関してはそんな少年時代のトラウマもあってか、どうしてもカタカナばかりで読みづらいというイメージが払拭できず、大人になってからも主に日本の小説を読み、海外小説を読む場合には洋書を買って原文で読んでいた。

ときは経ち、いまこうしてロンドンにいながらアマゾンでたまたまシャーロックホームズの書籍を見かけてふと、「読んでみようかな」と思った。

ホームズに関して知っていることといえば、子供の頃ちょっと読んだことがあるのと、あとはドラマ『Sherlock』といったところだろうか。描かれ方は違うとはいえ、登場人物はなんとなく把握しているつもり。

そんなこんなで今回手にとったのが深町眞理子訳のホームズシリーズ。どうやら新訳版で読みやすくなっているらしい。

一応あまりホームズについて知らないという方のために簡単にご紹介。

シャーロック・ホームズシリーズ(英: Sherlock Holmes)は、小説家アーサー・コナン・ドイルの作品で、シャーロック・ホームズと、友人で書き手のジョン・H・ワトスンの織り成す冒険小説の要素を含む推理小説である。

1887年から1927年にかけて、60編(長編4、短編56)が発表された。

長編として発表した第1作、第2作は人気が出なかったが、イギリスの月刊小説誌「ストランド・マガジン」に依頼され、短編を連載したところ大変な人気となった。

それ以降の作品はすべて同誌に発表された。

Wikipediaより引用
出典:Wikipedia
著者のArthur Conan Doyle(アーサーコナンドイル)

名探偵コナンのイメージもあってか、コナンはファーストネームだと思っていた方も多いのかなと。ミドルネームなのでコナンは姓にあたる。

ドイルはエディンバラ出身のスコットランド人。元々開業医であったがうまくいかず、生活のため筆をとることに。

エディンバラにはドイルの銅像がある。

ということで読んでみた

紹介はこの辺までにするとして。とにかく数十年ぶりにこのシャーロックホームズを読んでみたわけだが、これがなかなか面白い。

というのもホームズはロンドンを拠点としているのでどこに行っても知っている場所ばかりが出てくるからである。

ホームズのすみかが221B Baker street(ベーカー街221B番地)なのは有名な話。(実際にはこの住所は存在しないのだが)

住んだことない人からすると「221BのBってなに?」と思われるかもしれないが、実はこういう意味があるらしい。

221Bの「B」はラテン語・フランス語のビス(第2の)に由来し、建物の増改築などによって同じ番地に2軒の住宅が建つことになった場合などに使われた記号で、この住所つまりホームズたちの下宿の場合は階上にあることを示していた。

Wikipediaから引用

これについては知らなかった。自分もアルファベットのつく住所に住んだことがあるので、なるほどそういう意味だったのかと納得。

そしてワトスンのすみかはケンジントンで、開業医として医院を構えていたのがパディントン。

左がワトスンで、右がホームズ
出典:Wikipedia

と住んでいる人からしたら行ったことがあり、馴染み深いところが多いので読んでいてたまらないのである。

特定の店や建物なんかに関しては実在しないものも多いのだけれど、別の名前でその場所にあるものも多いので、その場合そこがモデルとなったのではないかと推測されるものも多々あり好奇心がくすぐられる。

ここで一度、今回読んだ第1作目とされる(エピソードでいうと『緋色の研究』『四人の署名』が最初)本書『シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)』に収録されているエピソードを振り返ってみる。

  • A Scandal in Bohemia / ボヘミアの醜聞
  • The Red-Headed League / 赤毛組合
  • A Case of Identity / 花婿の正体
  • The Boscombe Valley Mystery / ボスコム谷の惨劇
  • The Five Orange Pips / 五つのオレンジの種
  • The Man with the Twisted Lip / くちびるのねじれた男
  • The Blue Carbuncle / 青い柘榴石
  • The Speckled Band / まだらの紐
  • The Engineer’s Thumb / 技師の親指
  • The Noble Bachelor / 独身の貴族
  • The Beryl Coronet / 緑柱石の宝冠
  • The Copper Beeches / ぶなの木屋敷の怪

ホームズが “The woman” と称するアイリーンアドラーが登場するのも本書。

念のため原題も一緒に記載。ホームズ好きの人でも原題まで把握しているという方はそこまで多くないんじゃないかと思う。

というのもこれ映画とか本あるあるで、原題を知っておかないと海外の人と話していてたまたまその話題になったとき「あれって原題なんていうんだろ」という事態が多々発生する。(本について誰かと話すということは滅多にないけど映画はよくある。邦題がついている場合、意訳されている場合が多く(主に内容をわかりやすくするため)、英語のタイトルだったとしても原題と異なるものも多い)

ロンドンの土地勘があると、ホームズシリーズはより一層その面白さを増す。

例えば、ある収録作のひとつの中にこんな一節がある。

私たちはウィンポール街からハーリー街へ、いわゆる医師街と呼ばれる通りを抜け、さらにウィグモア街を過ぎて、オクスフォード街にはいった。

調査にでたホームズ、そしてワトスンはベーカーストリートからオックスフォードまで歩いている。

そこで手がかりを得た一行は次にコヴェントガーデンまで歩くのだが、ベーカーストリートからオックスフォードへ、そしてそこからコヴェントガーデンへは自分も何度も歩いたことがあるのでより具体的にイメージしやすく、当時の様子なんかも想像しながら読むと非常に面白い。

他にも、たとえば一節。

テムズの河岸通り(エンバンクメント)は、けっしてウォータールー駅へ行く近道じゃない。ー途中省略ー ウォータールー・ブリッジは人通りが多すぎて、不都合だったからだろう。

本書ではEmbankmentは”テムズの河岸通り”と訳されている。(わかりやすい)

これも土地勘があると「なるほど!」となる。

こんな様子でホームズはいつもロンドン中を駆け巡るので、ロンドンの地理がわかる人からするとたまらない。

ホームズを通じて学んだこと

いまは情報社会なので、当時では知られてなかったであろう事柄が今では一般に知られていることも多々あり、本書で登場する暗号めいたものが出てきたときにその意味がすぐわかってしまったものもなくはない。(当方が映画や海外ドラマの見すぎなだけかもしれないが)

しかし、今回ホームズを読んでみて知ったことも多々ある。

たとえば通貨の単位として登場する「shilling(シリング)」。

もともと以前にイギリスで使われていたもの(いくつかの国で使われていて現在でも通貨として使っている国もある)で、20シリング=1ポンドだったらしい。

また特定の硬貨には名称があって21シリングに相当するギニーという金貨もあった。(”ギニー”は本書でも登場する)

次に「Scotland Yard(スコットランドヤード)」。

これは “スコットランドの庭” ではなく「ロンドン警視庁」のこと。

かつて警察本部の庁舎があった場所の裏がGreat Scotland Yardという通りに面しており、そこからそう呼ばれるようになったそう。

あと、日本でいうところの京都のようにイギリスもロンドンがずっと中心であったわけではない。

中世ではウィンチェスターがイングランドの首都であった。

ウィンチェスターはロンドンから列車で約一時間、イングランド南部ハンプシャー州にある街で、大聖堂や城など見所もたくさんある観光地である。

ウィンチェスターのように、ホームズ一行は度々ロンドン郊外や地方にも出かけるのだが、これがまた面白いところで本書では遠方だとブリストル近郊まで出かけたりもしている。

なのでこれまで国内旅行に興味がなかった人でも訪れてみたい場所が出てくることだろう。

あと本書の感想として、本書の終盤で車窓に広がる田園風景を見ながらホームズが「地方」に対する印象を語るシーンがあるのだが、これにはすごく共感してしまった。

これに関しては自分も昔から同じことを感じていたので時代を超え、冷静沈着、頭脳明晰で遠い存在であるホームズを少し身近に感じられた瞬間でもあった。

最後の「解題」の項目もおもしろい

「解題」ではホームズが連載となる経緯や、各収録作にまつわる話がおさめられていて、これがまた読んでいて興味深い。

ホームズシリーズはたくさんの短編があるので、前後関係が取れていなかったりミスみたいなものが多いらしい。また、ネタバレは避けたいので深くは言及しないが、エドガー・アラン・ポーに影響を受けたであろうとされる作品もあるみたい。(エドガーアランポーはアメリカ人の作家で、江戸川乱歩の名の由来である)

ということで、ロンドンに来られる際はホームズの本を片手に観光してみるのも面白いかもしれない。

ちなみにアマゾンだったらKindle Unlimitedで読めます。