もともとこのシリーズを読み進めていく上で、タイトルには「何作目」とつけていた。
しかしこの”5作目”を読むにあたり、どうやらこの巻が事実上ホームズの最後の作品であることが判明。
この深町眞理子さんの訳書では全9巻あるわけだが、最初からそれが順番通りではないことは知っていた。
とはいいつつも、こんなに早く最後の作品に出会うとは思っていなかった。(Kindleで読んでるとその辺の事情がわかりづらい)
どうやら想像以上にこのホームズ作品は入り組んでるらしい。
ということでそもそも順番通りではないのにタイトルを「何作目」とするのは違和感を感じるようになったので「何冊目」に変更し紛らわすことにした。
短編と長編とに分けたことによってこうなっているんだろうが、本来初期の作品である『緋色の研究』や『四人の署名』がこの”6冊目”と”7冊目”に位置しているのは不思議である。(もしかして自分が読む順番を間違えてる?)
ところで、最近よく感じるのが「ホームズから日本語を学んでいる」ということ。
「韜晦」や「草々頓首」、「迂生」など普段お目にかからないような言葉がよく登場する。
冷静に考えてみると、いま私はホームズの舞台であるイギリスにいながら日本語訳されたイギリスの小説を読み、そしてそこから日本語を学び、イギリスの地から日本語で読んだ感想をブログに書いているというなんともおかしなことをしているものだなと思った。
そんなこんなで前置きが長くなったが、さっそく本題へ入っていくことにしよう。
The Case-Book of Sherlock Holmes / シャーロック・ホームズの事件簿
- The Adventure of the Illustrious Client / 高名な依頼人
- The Adventure of the Blanched Soldier / 白面の兵士
- The Adventure of the Mazarin Stone / マザリンの宝石
- The Adventure of the Three Gables / 〈三破風館〉
- The Adventure of the Sussex Vampire / サセックスの吸血鬼
- The Adventure of the Three Garridebs / ガリデブが三人
- The Problem of Thor Bridge / ソア橋の怪事件
- The Adventure of the Creeping Man / 這う男
- The Adventure of the Lion’s Mane / ライオンのたてがみ
- The Adventure of the Veiled Lodger / 覆面の下宿人
- The Adventure of Shoscombe Old Place / 〈ショスコム・オールド・プレース〉
- The Adventure of the Retired Colourman / 隠退した絵の具屋
前書のエピソード『His Last Bow / シャーロック・ホームズ最後の挨拶ーホームズ物語の終章』にてワトスンではなく三人称による語り口によるものがあったが、今回ではそれだけではなくホームズから事件について語られるエピソードもあった。
また本書では「蓄音機」や「電話」など前書に引き続き時代の変化を感じさせるものの登場もいくつかあった。
本書を読んで
ホームズシリーズで学ぶイギリスの建築様式
ホームズシリーズでは建物の描写としてよく「〜様式の」という説明がなされる。(その中でも今回は特に多かった印象。)
ちなみに本書ではチューダー様式、ジョージアン様式、ヴィクトリアン様式、そしてクイーン・アン様式が登場する。
しかし、よほどのイギリス好きやもしくはその筋の専門家でもない限りピンとこないものである。(自分も正直よくわかってない)
知識の全くないやつが一から書くのは不可能なので、参考となりそうなものをいくつか紹介。(非常にわかりやすいです)
参考 ジョージアン様式の街「バース」BRITISH MADE
この二つを見るだけでもかなりわかったつもりになれる。
本書からも垣間見れるブリティッシュユーモア
あるエピソードにて、事件を解決へと導いたホームズが警部に褒められる場面。
“私はかぶりをふらざるを得なかった。こういう称賛をのほほんと受け入れるのは、かえって自分をおとしめるだけだ。「ぼくだって、はじめはずいぶんうすのろでしたよ ー 救いがたいほどとんまだった」”
褒められてもself deprecation(自虐)で返すのがイギリス人という感じ。(ホームズとレストレード警部の互いにサーカスティックに言い合う場面とか懐かしい)
アメリカ英語とイギリス英語のスペリングや使う単語の違い
ここであえて説明する必要はないかもしれないが一応念のため。
アメリカ英語とイギリス英語では綴りの異なるものがある。
ざっと今思いつくだけでも例えば「color(米) / colour(英)」「center(米) / centre(英)」「analyze(米) / analyse(英)」などなど。
また単語も異なるものが多い。たとえば野菜なんかでもナスはアメリカではeggplantだが、イギリスではaubergine。ズッキーニはアメリカではzucchiniだが、イギリスではcourgetteなど挙げていったらきりがないほど。
ところで本書のとあるエピソードではこの「スペリングや使う単語の違い」により、ある広告がイギリス人によるものではなく、アメリカ人によって書かれたものだと解き明かす場面がある。
“たしか、”ブラウ”の綴りがまちがってたね。Ploughとなるべきところが、Plowになっていた”
“ほかにも、”バックボード”がそうだね。あれもやはりアメリカ英語だし、おなじく”被圧井戸”というのも、アメリカ英語では普及してるけど、こっちじゃさほど見かけない”
それは図として読者にも紹介されるのだが、残念ながら日本語の文章だけである。
一応単語にカタカナでルビが振ってあるので 下の単語の違いは分かる人には分かるのかもしれない。
しかし上のスペリングの違いというのはそもそも情報として提供されていないので分かる術はない。(まぁ仮に英語で書かれていたらいたで”そこにヒントがある”ことが明白になってしまうので難しいところではある)
もしくは日本語訳で読んでいる人に原文を見せたってスペリングの違いなんて分かりっこないだろうということなのだろうか。
最後に
本書には「訳者あとがき」があるのだが、それによると原文に古めかしい表現はあまり使われていないらしい。
最近時間があるときにはホームズのAudiobookを聞いてみたりするのだが、意外とすんなり内容を理解できるのはなるほどそういうことだったのかと納得。