自分にとってホームズシリーズ最後となる本『The Valley of Fear / 恐怖の谷』をついに読み終えた。
理想としては実質最終章となる短編集5作目『The Case-Book of Sherlock Holmes / シャーロック・ホームズの事件簿』を最後に持っていきたかったという思いもあったが、何も知らずにそして調べずにとりあえず短編集から順に読み進めてしまったので仕方ない。
The Valley of Fear / 恐怖の谷
本書の舞台となるのは二つ。
第一部ではサセックス州の北の辺境に面するという「バールストン」。
そして第二部ではペンシルベニア州にある炭鉱の町「ヴァーミッサ」。
どちらも架空のものだが、後者にはモデルがある。
というのもそもそもこの『The Valley of Fear / 恐怖の谷』は実在した秘密結社「モリー・マグワイアズ」の話を聞き、そこから着想を得たもの。(まぁこの辺りの話は「解題」にて詳細に書かれているのであえてここで細かく書く必要はない)
本書を読んで
マクマードという男
本書を読まずしてこんな記事を読んでいる方はたぶんおられないとは思うのだが、それでも念のため一応大きなネタバレみたいなことは避けるように書きたい。
ところでこのマクマードという男、あまりにもかっこよすぎないだろうか。
これまでこのようないかにも「読んだ感想」みたいなものは書いてこなかったがマクマードはちょっとかっこよすぎるというか、憧れる。
シリーズを通してたくさんの登場人物が出てきたわけだがここまで男前な描かれ方をした人物は他にいないはず。
“危険な求婚者と言うべきだろう。アイルランド人らしく口達者なうえに、相手がつい心を許してしまうような愛嬌もある。さらにあまたの体験を経てきた魅力と、その体験から謎めいた雰囲気、これらは女性の心をそそり、ついにはその気持ちを愛情にまで昇華させるものにほかならない。”
この『恐怖の谷』がホームズシリーズの中で人気の作品なのは彼の影響もあると思う。
アバディーン訛りのマクドナルド警部
“マクドナルドはスコットランド人らしく、なおも頑固に首をふった。「外部のだれかが侵入したという点にも、わたしとしてはいまだに承服しかねるところがあるんだ。まあ考えてもみぃな」ー議論に熱がはいってくると、持ち前のアバディーン訛りが一段と強くなるー”
イギリス英語にはたくさんのアクセントがあり、スコットランドだけでもいろんな方言がある。
参考になるかわからないがアバディーン出身で有名な女優といえばRose Leslie(ローズ・レスリー)。海外で異常なくらいの人気を誇るドラマ(あくまで個人的意見。でも本当にびっくりするくらいみんな観てる)Game of Thrones(ゲーム・オブ・スローンズ)にも出演しているので知っている方も多いと思う。
とはいっても彼女の話す英語のアクセントは非常に美しいものであり、これをマクドナルド警部のそれと同一扱いするのはさすがに無理があるだろう。
動画のコメントを読む限り、“That is a Scottish accent. Not all Scottish accents sound like Braveheart.”(ブレイブハートは映画)とか、“It’s not a Scottish accent. She’s speaking in RP, which is how posh people speak, wherever they’re from in the UK.”(RPとはReceived Pronunciationの略で「容認発音」のこと。イギリス英語の伝統的な標準発音でBBCのアナウンサーの発音、王族の発音としても知られる)などなど、彼女のアクセントについていろいろと議論されている。
個人的な意見を言えば、自分のスコットランド人の知り合いの女性もローズレスリーと似たようなアクセントで話すので正直違和感はない。日本に置き換えて考えても地方出身で綺麗な標準語で話す人なんてごまんといるわけで。
まぁ結論「人による」というところだろう。
ホームズシリーズから垣間見るイギリス文化「ハイティー」とは
“その午後いっぱい、〈マナーハウス〉で刑事たちふたりとの打ち合わせに忙殺されていた彼は、五時ごろ宿に引き揚げてきて、私が彼のために注文しておいた遅いお茶(ハイティー)を、がつがつと詰めこんでいるところだった。”
ここでホームズは卵、そしてトーストを食べている描写が出てくる。
一般にハイティーとは午後6時、もしくはそれ以降の夕食のことをいう。
多くの方が知っているアフタヌーンティーは元々は上流階級の人たちの風習であった。
一方金銭的余裕も就労時間も異なる労働者階級の人たちではそのアフタヌーンティーの代わりとしてこのハイティーが根付いた。
お茶とサンドイッチ、肉料理や魚料理などがつく。
最後に
というわけでついにこのホームズシリーズ全巻をすべて読み終えた。長いシリーズといえば長いシリーズだったが、実際手にとって読み進め始めたら止まらずけっこうあっという間であった。
読み終えたといっても、おそらくこれからもブログで度々ホームズについては書いていくことになる予定。
というのも「ホームズゆかりの地」のみならず、まだまだ書ききれてないことは結構ある。
本当は次に「解題」にて紹介されるコナンドイルの作家生活や生涯について書かれた本や深町真理子さんの『翻訳者の仕事部屋』も読みたいのだが、Kindle版では存在せず海外では読めないものも多いので非常に残念である。